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歯科用ジルコニアと前装陶材との接着強さについて

【序論および目的】
 
 歯科用材料としてのセラミックスは、周辺技術の改良、発展に伴い注目を集めている。
その中において優れた機械的性質、審美性を兼ね備えるジルコニアは、歯科材料として主にインプラントのアバットメント、クラウン・ブリッジのコアとして用いられている。
クラウン・ブリッジのコア材料としてのジルコニアは、一般的なコア材料である金属に比べ、その本質がセラミックスであることにより、優れた審美性を示す。
しかしながら、より天然歯に近い審美性を得る為には、さらに前装陶材を築盛、焼成し、適切な形態、色調を付与しなければならない。
それ故、コア材料であるジルコニアと前装陶材との接着強さとは、ジルコニアを用いた歯科補綴物を作製する為の一つの重要な要素である。
また、本研究における目的とは、未だ解明されていないジルコニアと前装陶材との接着メカニズムを、2種ジルコニア基材、3種歯科用陶材、3種焼成時間、そして4種焼成温度を用いてボタン型試料を作製し、接着試験を行い、加えて、同様の条件にて作製した円筒形の陶材試料を用いて間接引張試験を行い、各々抽出されたデータに基づき検討を行う事である。

【材料および方法】

 本研究においては直径15mm、厚さ0.5mmの円盤型のイットリア系ジルコニア焼成体(以下Y-TZPと略す)と同寸法のセリア系ジルコニア/アルミナナノ複合材料の焼成体(以下NANOZRと略す)を2種ジルコニア基材として用いた。
それら基材をダイアモンド研磨紙にて#1000まで研削し、蒸留水中にて10分間超音波洗浄を施し、大気乾燥した。
その後、ヴィンテージZR(松風)、セラビアンZR(クラレノリタケデンタル株式会社)、そしてVM9(VITA-ZahnFabrik)の3種歯科用陶材のオペーク陶材を2種ジルコニア基材に塗布し、メーカー推奨条件を含む3種焼成時間条件、4種焼成温度条件にて真空焼成した。次にオペーク陶材を焼付けた基材上にアクリルレジン製型枠を置き、超音波バイブレーターを用い、コンデンス法にて前述3種歯科用陶材のデンチン陶材を築盛、120℃恒温の電気炉内にて10分感乾燥の後、型枠を外し、各焼成時間、温度条件にてデンチン陶材の焼成を行った。
また、試料作製においては7個、8個の2グループにて、ランダムに作製条件を組み合わせ陶材の焼成を行い、各条件計15個の試料数を満たした。
これら試料は、接着試験用の治具に固定し、クロスヘッドスピード0.5mm/分にて、万能引張圧縮試験機を用いて接着強さを測定した。
加えて、前述試料作製法、作製条件にて円筒形の陶材試料を作製し、間接引張試験を行い、接着試験結果データとの相関関係等を検討した。

【結 果】

 各条件において陶材焼成温度の上昇、焼成時間の延長に伴い、ジルコニア基材、歯科用陶材間の接着強さが増加している事が認められた。
また、間接引張試験においても、焼成温度の上昇、焼成時間の延長に伴い、間接引張強さが増加している事が同様に認められた。一方において、幾つかの条件の試料では、焼成過程における陶材の変形、変色も認められた。

【結論及び考察】

 陶材焼成温度の上昇、焼成時間の延長に伴い、ジルコニア基材、歯科用陶材間の接着強さ、陶材試料の間接引張強さが増加している事が認められた。
これは、陶材の焼成が促進し、陶材内部の微細な気泡が消失、高密度となり、それに伴いジルコニア基材、陶材間の接着面積が増加した事により生じたものと考えられた。
また、接着試験結果データに対し分散分析統計処理を行い、接着強さへの因子毎の寄与率を求めた結果、陶材焼成温度(10.3)、ジルコニア基材(6.9)、焼成時間(5.1)となり、前装陶材によるものは(0.9)と最も小さい寄与率を示した。
このうち陶材焼成温度においては、前述の焼成の促進によるものであると考えられる。
また、ジルコニア基材においては、Y-TZP、NANOZRそれぞれの組成に基づく熱膨張係数に起因する圧縮応力の相異によるものであると考えられる。
陶材焼成時間においては、焼成温度と同様に焼成の促進の作用によるものであると考えられるが、接着強さへの寄与率は、焼成温度によるものに比べ小さい値を示した。
そして因子中最も小さい寄与率を示した前装陶材は、接着試験にて用いた3種陶材間の相異は、2種ジルコニア基材に対する接着に対し、他の因子に比べ、より少ない影響を与えるという事である。
これは、3種陶材それぞれの組成および熱膨張係数がジルコニアのそれに対応して設計された為であると考えられる。
間接引張試験においては、陶材焼成温度の上昇、焼成時間の延長に伴い間接引張強さが増加している事が認められた。これも前述と同様の作用によるものと考えられる。
また、前装陶材の間接引張強さへの寄与率は、焼成温度、焼成時間のそれに比べ大きい値を示した。これは、被着材が存在しない条件において陶材の焼結が進行した事に起因するものと考えられる。それ故、ジルコニア、歯科用陶材間の接着強さを扱う本研究においては、陶材の焼成温度、焼成時間に起因する間接引張強さへの影響をより考慮すべきものと考える。
また、ジルコニア、歯科用陶材間の接着強さと陶材試料の間接引張強さとの相関係数を求めたところ、2種ジルコニア基材、3種歯科用陶材間全てに正の相関関係が認められた。この事からジルコニア、歯科用陶材間の接着強さとは、本実験にて用いた歯科用陶材の焼成温度条件、焼成時間条件により増加する事が推論される。これは、陶材の焼成温度の上昇、焼成時間の延長により、陶材の焼成が促進し、密に基材に対し接着するためであると考えられる。
また、その接着メカニズムとは、界面における双方の反応層による化学的な接着であるよりもむしろ、陶材の焼成の促進により生じた、緊密な接着界面、強い圧縮応力に起因するものであると推論された。

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